歯原病-病気を見て患者を見ず

歯原病の可能性

ヒトの顎口腔の機能には咀嚼、味覚、嚥下、発音、発声など、他の器官にはみられない機械的および生理的機能が条件的に満たされて、初めてヒトは心身の健康を享受することが可能になる。
また、その機械的破砕器官である顎口腔が存在する頭蓋はからだの最上部に位置し、その頭蓋を直接支える筋群は左右に16対、32本の大小の筋群からなる。
これら人体の解剖学的法則性は旧石器時代人と比べても全く進化していないと言われ、実に微妙なバランスを保っている。従って、機械的破砕器官の顎口腔に何等かの不調和が生じた場合は、周辺隣接領域を介して全身系に及ぶ実態を真摯に受け止めなければならない。
特に直接的には、神経筋機構を介して隣接する臓器や器官に与える影響をありのままに捉えることが、今後の科学研究に望まれるのである。これなど対象を患者にしたことではなく、自身でも経験できる現象と言えまいか。

前節(歯原病の諸症状 )の1~12に該当しないもの、また自覚なしとしても、以下の項目に心当たりがある場合も、後々のためにも一度、精査の要があるのではないかと考える。

※過去にスポーツ、車、バイク、自転車などの事故、また喧嘩やふざけあい等で”顎を打つ”などの外傷を受けたことがある。
※自身では気にならないが、周囲の人から指摘をされて気が付くと、食事中に”歯のきしむ音”がする、また、就寝中に歯ぎしりをする。
※歯科の治療経験がないが、”歯を食いしばる”癖があり、目覚めに疲労感がある。
※”噛み合わせに異常”を感じている。
※口の中の同じような場所に”口内炎が”良く出来る。
※食事中などを含め”耳の閉塞感や耳鳴り、耳痛”を感じることがある。
※”口角炎”が気になる。
※風邪ではないが、いつも”鼻にかかった声”である。
※風邪の症状がないのに慢性的に”のどに違和感”があり、常に空咳をする。
※原因に心当たりがないのに、ある時点から急に”血圧異常”と診断された。
※原因不明の”偏頭痛や肩凝り”などが慢性化している。
※原因不明の腰痛、関節痛、手指や足指に”痺れ間”がある。
※食事の後に”胸苦しさ”を度々経験している。
※”食後に顎の疲れ”を感じる。
※俗にいう”首の寝違い”を度々繰り返す。
※頚部に”運動障害”を感じている。
※寝起きに”疲労感や偏頭痛を自覚”するが、暫くすると症状が消える。
※内眼角、または外眼角(目の鼻側と外側)の”結膜炎のような内出血(赤目)”が度々繰り返す。また”眼圧がある時点から極度に不安定”になる。
※”視力の左右差が頻繁”におきる。
※”蓄膿症で手術を受けたが再発”を繰り返す。
※”メニエール症候群”の初期症状と言われている。
※手指、肘、腰、膝などの”関節炎および関節リュウマチ”の疑いがあると言われた。
※”顔面にチック”症状が時折出る。
※原因のはっきりしない”手指の腱鞘炎”の症状がある。
※元々歯並びが悪く、努力しても”片側でしか噛めない”。
※ある時期から”精神的に不安定”になるのが自覚できる。
※”魚の目”が同じようなところに度々出る。
※足の爪が”巻き爪に”なる。
※首の後ろ(後靱帯)に”吹き出物”が度々出来る。
※”口や鼻が曲がっている”が、自覚症状はない。
※”前歯の歯並びを変えて喉に異常”を感じやすいなど等。これら諸々の状態が顎や口腔の条件と密接に関連していることが考えられ、後に何等かの症状を引き起こす可能性がある。

そして、これら状態が症状に変化し、それが二次性のもの、つまり、これら病態の原因がはっきり判っている場合を除き、そもそもの原因が全く掴めない場合など、また、これらの状態が重複している場合なども含め、その原因を探る意味においても、歯の噛み合わせや上下の顎の位置関係に問題が有るか無いかも疑ってみるべきではなかろうか。

以上は特に傾向的に若年層の女性に多いとされ、その中でも全身の骨格や筋肉の付き方が男性に比べて特に弱く、顔面補強装置の弱い、きゃしゃな体つきの女性に出る傾向がある。
しかし、前歯部の緊密な噛み合せの状態によっては、男性にも特徴的に鼻腔、咽喉部、視力、前頭部領域等など、また腰痛症なども頻発しているという。
その他、原因が全く分からない月経不順や腰痛症で悩む女性なども、顎や歯並びの異常がないか精査をしておくことも無駄ではない。
また、不妊に悩む夫婦で女性が治療の対象になることが多いが、今の若い男性の特徴とも言える、ショウユ顔と言われる者の咬合高径に問題がある場合が多く、それによるとみられる精子不足も、女性の月経不順と同様の視点で、骨盤腔に与える影響など、専門的な精密検査をしてみることも賢明な選択肢の一つと言えるだろう。

医学界では従来から、病気の原因を探る様々な努力はなされてきたのであろうが、残念ながら、原因不明率は下がるどころか上っていると言われている。

人体の硬組織中でももっとも硬い消化器系の硬組織の歯牙、その歯牙が存在する顎口腔の機械的な機能が何らかの原因で乱れ、それらが引き金となる不調和により、物理的に他の症状をもつ多くの患者が今日も各診療科を訪れているものと思われる。しかし、そのいずれもが前述のように、対症による対処療法が主流となっている。
それぞれの症状に悩む多くの患者が、より早い段階で真の原因究明がなされ根本的な治療が受けられ、完治するように願わずにはいられない。

昏迷する新世紀であるが、国民の健康に関わる大問題であることからも、政治の大英断により、現在の医療保険制度や医師、歯科医師の既得権にも大鉈をふるい、この国の医療の抜本的な洗い直しを願いたい。
そして、何が必要で、何が不要なのか、早急な検討を願わずにいられない。

この医科と歯科の狭間の疾患ともいえる問題は、結果として患者にとっては不利益なことであり、人権に基づく患者の権利からの強い要望でもある。
患者が第一義的に考えられなくて、何の医療なのか!ということである。

- Copyright (C) DentalAnalystJapan 2007 -