歯の常識のウソ

現在までの歯科の予防思想

従来から歯科で指導しているブラッシングやシーラント、フッ素塗布や洗口などが歯科疾患の予防になる、ということだけでは、歯自体の疾患には多少の結果があるとしても、その予後において”歯原性の医原病の予防”には全く役立たないことを改めて認識すべきである。
つまり、歯が残って全身性の疾患に波及するのではナンセンスである。

今後の歯科学は過去のしがらみを脱却し、その専門性を遺憾なく発揮するためにも、口腔に直立している歯牙が”全身系の生理に於いてどういう存在”であるか、という全身系の中の顎口腔を対称にする学問体系として発展しなければならない。
これは歯科学の根幹に触れる問題であり、全身性の生理や健康を考える上で見逃してはならない重大な要素でもある。

医療が今問題としなければならない様々な案件の中に、人体の顎口腔を教育の段階からも分断し、顎口腔を「顎口腔科」ではなく単に「歯科」に委ねてしまった結果、人体に発症する様々な疾患を、より総合的またはホリスティックに精査診断する体制に、顎口腔の全身系への影響を追求すべき学問が取り残される結果になったのである。
国と医学会全体の責任が問われなければならない。

何故なら、全ての疾患の原因不明率の高さを現在も放置している実態をこそ、指摘せざるを得ない。
人体に結果として発症する様々な疾患には必ず何等かの原因が存在するはずであるが、現在、医学界においてもそれを言葉に出すことすら憚られるほどである。と言うことは、近代科学の最先端の医学をもってしても原因不明率に対する対策は目途すら立っていないのである。

この先も医歯二元論的な現行制度を踏襲するのであれば、全く原因が掴めない疾患は、その内容も然ることながら、今後も一層、増加傾向と辿ることを危惧する。

しかし、元より原因がないのではなく”分からない症状”なのである。であるなら、可能性を追求する意味においても、人体の顎口腔を検査対症に組み入れるべきであったが、”顎口腔の機械的機能の精密検査”を、医歯二元論の建前上、対症とはせず、専門診療科による対処で責任回避をしてきたといえる。

米国では、ヒトの顎口腔の機械的な機能不全が誘引となる様々な実態の重大性に気付いている節がある。
何事も米国に追随するのを良しとしないのであるが、こと国民の健康に関わる重要問題であることから、諸外国の整合性のある合理性を急ぎ学び、良い制度やシステムは早急に取り入れるべきである。
医師、歯科医師にとって都合の悪い制度や手法は知らん振りをして、自分達の利益に繋がることだけは、人体の特徴や骨格性の違いを全く無視したのではないか!といった公然たる批判の対症となる前に、自浄作用を働かせなくてはなるまい。

古く歯固めの慣わしや、各種俗語などで言われるように、また自身のからだを通して、国民は歯とからだの重要な関連性についてある程度、認識しているのである。
医学系の歯科学が、それらをテーマとはせず、結果的に口腔疾患の治療技術にのみ全精力をそそぎ、手をこまねいて来たからに他ならない。
また、いかに学問上の定説でも、気付きや発見に基づく研究により、書き換えられるためにあるのが学問である。
政府においても聖域なき構造改革の必要性が叫ばれ、各般にわたる作業が行われていることに国民の期待感が大きいが、現在の歯科界は果たしてこのような抜本改革が期待できるであろうか。

顎口腔と全身系の関わりには、従来からの歯科学で明らかになった、顎機能や口腔生理などに加え、全身系の生理機能との整合性を知るためには、生理解剖学的視点や人体構造と重力の関係、ヒトの重心線と生体バランスの微妙な関係の解析など、また、医科での診断学や病態生理学などの内容が盛り込まなければなるまい。
つまり、これらが従来の歯科学及び歯科医学教育には欠けていた点であり、ヒト固有の顎口腔のあるべき整理とは何かを自然科学的に患者の緻密な問診を始め、あらゆる関連する他科の専門知識を横断する制度を整え、それら手法を取り入れた症状分析、および症状固定をし、必要とあれば歯科学の立場から、天然歯および補綴歯の「咬耗の程度」「歯軸の傾斜状態」「1本1本の歯牙自体に顎を偏位させる要素があるか否か」「上下の顎の変形異常の状態」「歯冠補綴素材の口腔整理上の状況」等々、固有の生体生理と顎運動との整合性は如何なるものか、また、それら実態を関連他科の所見と系統的に集約し、人体の疾病に対するより総合的で根源的な診断が下せるように大きく軌道修正しなくてはならないものと考える。

つまり、顎口腔における経年変化(加齢現象)は、場合によっては全身系の疾患の原因になることがある、という一歩も二歩も踏み込んだ認識が必要になる。
その前提で、顎口腔の不調和が全身系の病態にいたる兆候として自然科学的視点でありのままを記録し、予想される疾病に対する予防思想を確立すべきである。
これこそが整合性のある、揺るぎない予防医学的な歯科学と言えるであろう。これら医科と歯科の連携した医療が実現することで、各種症状のそれぞれの原因が明確に解明され、診断、治療、その予後に寄与するものと考える。それらが実現することで多くの原因不明の疾患率が引き下げられるのではないか、と期待するところでもある。

また、現在までの日本の歯科学教育は、顎口腔の専門家を育てるはずの教育の中で、人種差による解剖学的な差異など、先に述べた個人の持つ顎口腔の機能上の精査の意味を教える教科はなく、これに緊急の善後策が必要なことは言うに及ばない。

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